音楽資料について


    1.一作品多媒体

    一つの音楽作品が多種多様な形態で存在すること。


     例えば、ベートーヴェン作曲 交響曲第9番 副題:合唱つき の場合、

    【例:楽譜(スコア)】ベートーヴェン: 交響曲 第9番 ニ短調 Op.125 「合唱付き」/ベーレンライター社デル・マール編中型スコア
     出版社:ベーレンライター社

    【例:楽譜(合唱用)】ベートーヴェン作曲 交響曲第九番 第四楽章 ”歓喜に寄せて” 大型版 フリガナ付
     出版社:河合楽器

    【例:CD】ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」
     レーベル: ユニバーサル ミュージック クラシック
     演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
     指揮:レナード・バーンスタイン

     過去の銅版印刷によるものから現在売られている楽譜、スコアと各パート譜、録音資料や映像資料等、元となる楽曲は1つでありながら多数の形態で存在することが特徴です。
     日本でも「一万人の第九」として有名になったこの曲ですが、オリジナルはベートーヴェン自身の手書き楽譜です。この自筆譜から各パート譜が書き起こされ実際の演奏に使われる楽譜になりました。
     現在では多様な出版社による楽譜だけではなく、多様な演奏団体による録音や映像が世界中に存在します。

    一作品多媒体



             

    2.一媒体多作品

    1冊の楽譜集や1枚のCDに複数の作品が収録されること。


    【例:楽譜】弦楽四重奏 名作アニメカルテット <宮崎駿監督作品>
     出版社:ドレミ楽譜出版社
    (スタジオジブリ作品の主題曲の弦楽四重奏アレンジ集)

    一媒体多作品(楽譜)



    【例:CD】スタジオジブリの歌  
     レーベル: Tokuma Japan Communications
    (スタジオジブリ19映画作品の主題歌・挿入歌全26曲を収録)

    一媒体多作品(CD)

     短い楽曲は、1冊の楽譜集や1枚のCDに複数の作品が収録されるケースが多い特徴があります。


     

    3.多言語

    一つの音楽作品が世界各国の様々な言語で呼称されること。


    【例1】交響曲第9番 副題:合唱つき 作曲:ベートーヴェン
       日本での別名「第9」「第9交響曲」等

    【例2】くるみ割り人形 作曲:チャイコフスキー
       ロシア語(原題)「Щелкунчик」、英語「The Nutcracker」、
       フランス語「Casse Noisette」等

    多言語

     言語情報ではない音楽は、楽譜やCDなどでの表記(責任表示やタイトルなど)が変化しても楽曲そのものに変化は起こりません。
     「くるみ割り人形」と検索し、「Щелкунчик」「The Nutcracker」「Casse Noisette」等と記述された楽譜や録音資料にもたどり着ける工夫が必要とされています。


    4.多責任性

    同じ作品に多様な責任性(作曲者、作詞者、編曲者、演奏者、校訂者等)があること。


    【例】旅立ちの時(混声3部合唱版)
    作曲:久石譲 作詞:ドリアン助川 編曲:富澤裕
    音源の一例:クラス合唱曲集 ニューヒットコーラス ベストソング 改訂版(発売:フォンテック)
    歌唱者:平松混声合唱団 演奏者:奥田和(ピアノ) 指揮者:平松剛一

     音楽における資料の責任表示は作曲者、作詞者など多数にわたります。これらの表示は音楽の検索者にとって欠かせない手がかりとなります。

    多責任性

      

    5.総称タイトルとタイトルの非固有性

    楽曲形式(ソナタやコンチェルト等)が作品名として用いられることがあること(総称タイトル)。

    【例1】ヴィヴァルディ作曲 2つのヴァイオリンのための協奏曲 イ短調 Op. 3, No. 8, RV 522
    【例2】バッハ作曲 2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV 1043

     複数の作家が同じ楽曲形式で同じタイトルの楽曲をそれぞれ作曲しています。
     総称タイトルとは、楽曲の形式などをそのままタイトルとしてつけたものです。この「協奏曲」とは「コンチェルト」とも呼ばれる、独奏楽器と管弦楽とが合奏する形式の器楽曲のことです。楽曲形式がそのままタイトルとなっています。
     「協奏曲(コンチェルト)」に限らず、同じ総称タイトルを持つ曲は多数存在します(タイトルの非固有性)。
     

    オリジナルのタイトルの他、通称(ニックネーム)が存在すること。


    【例】交響曲第9番作品125ニ短調 作曲:ベートーヴェン 
      通称「第9」(日本固有の呼び方)、「合唱付き」
      交響曲第41番ハ長調 K.551 作曲:モーツアルト 通称「ジュピター」

     同じ楽曲でも、地域によって異なるニックネームが付けられる場合があります。多様な国で刊行される曲は、刊行国の言語の影響を受けるために、同じ作品に各国それぞれのタイトルが付けられる可能性が高くなります。


      

    6.多作家の総称タイトル

    作品数の多い作曲家ほど楽曲形式を冠した作品名の楽曲を作曲していること。


    【例】ハイドンのディベルティメント約130曲とモーツアルトのディベルティメント約30曲等

     多作家とは、作曲した楽曲の数が多い作曲家のことです。
     総称タイトルについては前項5.を参照ください。
     特にバロック時代から古典派時代では、多くの楽曲を作曲した作曲家ほど、同一の総称タイトルによる複数の楽曲を作曲しています。このため同一作者による多数の同一タイトルの楽曲が存在しています。
     モーツアルトの「ディベルティメント」だけでも約30曲が該当するので、楽曲のタイトルだけでは、特定の1曲だけを見つけ出すこと(同定)やほかの楽曲と識別することが困難となります。

     一部の作曲者の作品には、後世の研究者によって作品番号や学術的な整理番号が付与されています。
     バッハ作品につけられたBWV番号(バッハ作品主題目録番号,別名シュミ―ダー番号)やモーツアルト作品のKV(ケッヘル)番号等が有名です。

     

     ※ハイドン・モーツアルトそれぞれの「ディベルティメント」は、ニューグローヴ世界音楽大事典(講談社)のハイドン・モーツアルトそれぞれの項目にある作品リストから曲名が「ディベルティメント」と記載されているものを集計しました。別名で「ディベルティメント」と呼ばれているものは除外しています。


    7.作品の可塑性と断片化

    可塑性:一つの作品から、編曲や改作、加筆によって、オリジナルとは関連を持ちつつも独立性を持った作品が派生すること。


     例えば、バルトーク・ベーラ作曲 ルーマニア民族舞曲 の場合、

    【例1:楽譜(ピアノ・ソロ)】バルトーク : ルーマニア民族舞曲/ウニヴァザール社ピアノ・ソロ
     出版社:ウニヴァザール社

    【例2:楽譜(管弦楽)】バルトーク, Bela: ルーマニア民族舞曲 BARTOK, Bela: Rumanische Volkstanze
     出版社:ウニヴァザール社

    【例3:楽譜(弦楽合奏)】ルーマニア民族舞曲 ROUMANIAN FOLK DANCES
     出版社:Boosey&Hawkes 編曲者:アーサー・ウィルナー

    【例4:楽譜(吹奏楽)】ルーマニア民族舞曲
     出版社:ブレーンミュージック 編曲者:後藤洋

     この楽曲のオリジナルは1915年にピアノ曲として作曲されたもの(例1)です。 その後1917年にバルトーク自身によって管弦楽版(例2)に編曲されています。 現在では複数の編曲者によって、弦楽合奏(例3)、吹奏楽(例4)など、多様な編成にアレンジされています。

    可塑性

    【例】水のいのち 作曲:高田三郎
     作曲家自身により、編成の異なる複数の合唱曲として刊行されています。


    編曲されるたびにオリジナルと関連を持ちつつも、それぞれ独立性を持った作品として扱われます。

    断片化:オリジナルの作品からの抜粋や断片が独立的に存在すること。

    【例:CD】夜の女王のアリア/崔岩光オペラ・アリア集
     レーベル:キングレコード

     オペラとは、全幕が音楽で構成されていて、登場人物の台詞も歌で表現される劇のことです。音楽、演劇、文学、舞踏、舞台装置などの総合芸術でもあります。日本語では「歌劇」と訳されます。
     アリアとはオペラのきかせどころとも言える主要な独唱曲です。

     このCDは、崔岩光というソプラノ歌手が歌ったアリアを多数収録しており、オペラ「魔笛」からは「恐れることはない」「地獄の復讐は我が胸に燃え」の2曲が収録されています。
     オペラ「魔笛」から抜粋された2曲のアリアだけが他のオペラのアリアと一緒に収録されている事例です。



    断片化


     オリジナルから派生した作品とオリジナル作品全体との関連付けの必要性は、音楽や芸能関係の資料に特有の問題です。